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インクジプシーとは、萬年筆をこよなく愛し、最愛の萬年筆にマッチする最良のインクを探し求める人々である。インクジプシーとなった人々の部屋にはインク瓶が散乱し、ありとあらゆる紙に様々な色合いのインクで書かれた文字がしたためられているのであった…
どうやら私もインクジプシーに進化してしまったようです。「インクジプシー」、ポケモンの名前みたいななんとも可愛らしい名前です。簡単にいえば、インクジプシーとは萬年筆のインクを次から次へと買い求め、書き試しては「なんか違う…」また試しては「これも違う…」と、どんどんインクの底なし沼にはまって出てこれなくなってしまう人のことです。怖いですね。インクジプシーとインク沼は同義語です。
ここ最近、暇あらば iPhone を使って萬年筆のインクの検索ばかりしています。パイロットの色彩雫が気になった日には悲惨でした。青だけで何種類も用意されているので、それぞれの色合いが気になりネットを探し廻り…本当に沼にはまったように抜けられなくなるのですね。
いろいろなインクについて調べていますが、やはり私が萬年筆を使い始めた当初から一番好きなインクは古典ブルーブラック (Blue Black; BB)です。古典 BB の最大の魅力は、インクに鉄イオンを使用しているため、経年変化によって色合いが大きく変化するところにあります。書いた当初は鮮やかなブルー、書いてからしばらく経過した文字は渋い黒色に変わっていきます。ブルーブラックという名前の由来はそこにあります。最初に見られる鮮やかなブルーは染料の色で、染料のブルーが退色した後に見られる黒色が鉄イオンが酸化したために現れる色です。
どうでしょう、なんとも理系心をくすぐる素敵な仕組みになっていますよね。昔の人々はこの鉄イオンを含む古典 BB を使用して文字を書いていました。自分が生まれていない時代に書かれた文字であっても、鉄イオンの化学変化によって定着した文字を現代でも読むことができます。このような昔の人の知識は素晴らしい。
もちろん、今私が書いた文字も古典 BB なら数百年後に読むことができると思います。孫に読まれてしまうかもしれないので恥ずかしいことは書けません。昔の道具に、昔のインク…萬年筆を使うのならこの組み合わせが最高だろう、と私は思っています。
最近では、染料インクが一般的になっています。一般的になるあまり、つい最近まで古典 BB を販売していたメーカーが古典BBの生産をやめてしまうという寂しい話もあります。古典 BB よりも染料インクの方が萬年筆に優しい、という点もメーカーが生産をやめる理由の一因になっていると思います。現行の古典 BB は、以下の5種が有名どころかと思います。
正確には、ローラー & クライナーのスカビオサはブルーブラックではなく、紫色のインクなのでパープルブラックと言うべきでしょうか。
つい先日までラミーの BB も古典 BB だったのですが、どうやら染料インクに変更となってしまったようです。裏抜けしにくく色味も BB らしくてとても綺麗なので、好きなインクの一つでした。ファンも多かったと思います。残念でなりません。
モンブラン、ペリカン、プラチナの BB は今手元にあるので、今度はローラー & クライナーが気になっています。サリックスは一般的な BB と比較するとやや淡めな紺色。スカビオサは古典系インクでは珍しく紫色のパープルブラック。これがどちらも素敵な色なのですよ。インクジプシーとしては、どちらとも入手したい…
もうしばらくネット検索の旅に出て、いずれはどちらか1本ポチッとしてしまうと思います。…いや、どちらも捨てがたい。萬年筆で文字を書いているとき、萬年筆を洗浄しているとき、ネットでインク探しの旅に出ているとき、この三つが私の心のオアシスです。